『ケールのレシピ 強く、やさしく、美しい。魅せられるケールと料理』の料理とレシピを担当した池㞍彩子さんのインタビューをお届けした前回。続きとなる後編では、本書の編集担当笠原(KALEZINE主宰)も登場して、レシピに込めた思いや制作秘話、今改めて感じるケールの魅力を聞きました。

取材・文/川嶋亜樹 撮影/東郷憲志

料理家 池㞍彩子(いけじり・さいこ)さん

兵庫・神戸市生まれ。地元の洋菓子店「ダニエル」に8年間勤務し、販売と製造を経験。その後、京都のお菓子教室でアシスタント講師などを務め、2010年にアトリエ「甘空」設立。大阪、本町クッキングスタジオ「シェリプロ」講師や「フロレスタ キッチン コドモ」のシェフ兼開発顧問に就任。2018年、芦屋にデリ&スイーツ店「amasora」をオープン。全国各地の生産者を訪ね、吟味した食材を使用し、素材そのものの味わいや力強さを大切にした“自然派料理”を提唱する。
デリ&スイーツ店 amasora

ケールって
こんなにも種類があるんだ

もともと編集の笠原さんとは取材を通してお知り合いだったとのことですが、ケール本のオファーがあったときはどう感じましたか?

以前に何度か取材をしていただいていたので面識はありましたが、お久しぶりだったので驚きました。何より笠原さんのケール愛に圧倒されました(笑)。私もケールは好きな野菜の1つでしたが、色や形、大きさなど、こんなにも種類があることを知りました。

そもそもケールって売っているお店が少ないんです。amasoraがある芦屋や近隣市の西宮界隈では、オーガニックや自然派食品を扱う専門店、こだわり野菜を販売する八百屋などに置いてあるので、見つけたら買っていました。葉が縮れているカーリーケールは、ボリュームがあって見た目も可愛く、撥水効果もあるのでお店で販売するお弁当には、バラン代わりによく使っていました。

ただ、特別頻繁に使っていたわけではなかったので、オファーをいただいたとき、私に務まるかな?と少し不安に思いました。ですが、うちの店に、海外を拠点に料理の活動し、ケールをこよなく愛しているスタッフがいて。彼女に話すと、「海外ではケールがポピュラーで、種類も食べ方もいろいろあるんですよ!絶対にやりたい!手伝います!」と大喜び。背中を押してもらいました。

ケール初心者でも
気軽に手に取れる1冊に

ここからは編集を担当した笠原さんにもお話を伺いたいと思いますが、レシピを構成する上で工夫された点はどこですか?

笠原:池㞍さんには構成を立てる段階から相談に乗っていただいて、まずは、章立てを話し合いました。季節ごとや料理のジャンルごとに組むことも考えましたが、普段ケールをサラダのように生で食べる人が多いだろうから、きっとそれ以外の調理法が知りたいはずだと思って。

池㞍:それなら「生で食べる」「炒める」「茹でる」といった調理法別の構成でいこうとなったんですね。調味料やドレッシングなどを合わせると50以上は考案したんですが、その多くを採用いただいてほっとしました。

笠原:初めに出してくださったアイデアの時点で、ラインアップが素晴らしくて。ケールをこんな料理に使えるんだ!と、文字だけの情報でしたが、感激しました。

レシピを考案する上で難しかった点はありましたか?

池㞍:「ケールでスイーツを考えてください」といわれたときは、一瞬フリーズしちゃいました(笑)。ありがちなレシピになってはいけないし、本を作る上で、絵(ビジュアル)のバリエーションが大事だということも理解できるので、仕上がりの見た目も含めて悩みました。
今はバリに拠点を移している、先ほどお話したケール好きのスタッフにもたくさんアイデアを出してもらいました。ごま和えやお味噌汁など、日常づかいのレシピのほか、ハレの日にも使えるレシピなど、全体のバランスも考えてレシピは仕上げていきました。

笠原:ケールを野菜として食べてもらうこと、いろいろな調理法や料理をして楽しんでもらうことを大切にしていたので、読者の方々が実際に作りたいと思えるものをと、池㞍さんに相談して加減しましたね。

アーティスティックな
料理の数々

本書は、料理×アートがテーマとのことですが、見た目も華やかな料理が多く、眺めているだけで気分が盛り上がります。

笠原:池㞍さんに今回の料理とレシピを依頼した理由が、まさにそこなんです。アートのように料理をデザインされている印象を強く抱いていて、今回のレシピ本にそのアーティスティックさが必要不可欠でした。

池㞍:そう言っていただけて恐縮です。ケールは紫色のものもありますが、緑が多く寒色ばかりになってしまうので、ビジュアルでも美味しく感じてもらえるようにという意識はしましたね。たとえば、生春巻きはケールの葉が外側に来るように巻いています。アクセントとして黄色や赤色のパプリカを使っていますが、あくまでケールの美しさを主役に見せるようにしました。

笠原:その生春巻きに使うケール。ビジュアル要素だけでライスペーパーの一番上に置いているわけではないんです。料理するとき、食べるときにも納得する合理的な理由があるんです。ぜひ作ってみて、体感してほしいです。ほかのレシピにも、ちょっとした「なるほど」と思うコツやポイントが散りばめられています。

お好み焼きから和えもの、
がんもどきまで……!

レシピが決まるまで、苦労した料理はありますか?

池㞍:私たちも意外でしたが、お好み焼きがとても難しくって! 本当に感謝しかないんですが、考案したレシピ全部を笠原さんが実際に家で再現できるか調理してくれたんです。普段お店ではたくさんの量を作るので、最終的に家庭用の分量に落とし込んでいったんですが、お好み焼きは校了間際まで、加える水分や粉の量の微調整を続けていましたね。

笠原:ケールはキャベツの原種なので、代わりにすればいいやくらいの感覚だったんです。それが、大違い。最初にいただいたレシピで何度試してもべちゃっとなってしまって……。そもそもとして、私の腕が悪いという前提はありますが。

池㞍:キャベツは品種が違ってもそこまで水分量は変わりませんが、ケールは品種によっても水分量が違うので、大変でしたよね。

笠原:そう、品種を変えては、水分量も変えて……。次第に、どんな品種でも一様に仕上がることを良しとするより、品種の特色ごとに異なる食感や味わいの違いが楽しくなりました。しばらく我が家の夜ごはんにケールのお好み焼きが続きましたが、今では、お好み焼きにはキャベツ、ではなく、「ケール」が標準仕様に(笑)。

料理の各ページに、「この料理に合うケール」として品種を入れていますが、必ずこの品種を使って、ということではなく、あくまでも参考にしてもらえればと思います。本書に掲載している以外にもケールにはたくさんの品種があるので、いろいろな料理にトライしてみてほしいです。

レシピが決まるまで、苦労した料理はありますか?

笠原:皮もタネもケールの餃子もおすすめですし、がんもどきも最高ですね。本に書いた「がんもにケールはマスト。がんもは作るにかぎるを実感します」という一文は、私の心の声。最初は揚げたてを食べて、翌日はお弁当に入れたり、あんかけにしたり。楽しいと美味しいが続くのも気に入っているポイントです。あとは、ケールのカレーはうちの子どもたちにも大人気です。

池㞍:ケールの和えものが3種類あるのもこだわったポイントですよね。和えものは常備菜の代表で、毎日食べても飽きないもの。ケールを毎日のように食べてほしいとの思いを込めて、少しずつ表情が異なる和えものを考案しました。

笠原:たとえば、ごま和え。一度食べると、「これからごま和えには、小松菜やほうれん草じゃなくて、ケール!」と、実感してもらえるはずです。手で揉み込む手順があるのも、素材と向き合うことを大切にしている池㞍さんらしいなと感じました。

ケールは料理の
美味しさを底上げしてくれる立役者

最後に池㞍さんが半年以上ケールと向き合って、今改めて感じるケールの魅力はなんでしょうか?

池㞍:今やケールは生活の一部。毎日食べているほど大好きで、身体の調子もとてもいいんです。実は本書の制作期間中に体調を崩してしまい、このタイミングでケールに出会えたことに私自身が感謝しています。

日々ケールと向き合って一番に感じたことは、ケールって料理の美味しさを底上げしてくれる立役者ということ。ケール=苦いというイメージが、どうしても先行しがちですが、実はこの苦味こそが旨みに変化するんです。特にかつお出汁と相性が抜群で、煮込み料理ではそのポテンシャルを強く感じました。

さらにケールは食べ応えもあるし、ほかの食材や調味料に負けません。たとえば、ごぼうやセロリ、山椒など個性がある食材にケールの力強さが負けないどころか、それぞれのよさを引き立てて、味の土台になってくれます。このレシピ本が「苦い」「食べ方が分からない」というケールへの先入観を払拭するきっかけになればうれしいです。

amasora(あまそら)

兵庫県芦屋市
https://amasora.com/