念願叶って神戸の農家さんを訪問。「いつですか」「どうですか」と、暑苦しいほどに、ケールの生育具合を尋ねること数カ月。2025年6月初旬、兵庫県神戸市西区に圃場を構える、有機JAS認定農園・ナチュラリズムファームの大皿一寿さん・純子さんご夫妻を訪ねた。大皿さんは採種もしているという「ウワサ」を耳にしていたので、以前から訪れたい農家さんのお一人だった。話はケール以上のことにも及び……。多岐にわたる大皿さんの活動や言葉に琴線が触れた取材となった。前・後編に分けて掲載する。

取材・文:笠原美律
撮影:久保秀臣

まさかの6月に出会えた、神戸のケール

冬ケールの取材にうかがいたいと、最初にご連絡したのは2025年1月。すでに寒さで生育が止まっていると聞き、落胆。一方、「春ケールの種まきをもうすぐはじめるので、4月頃には良い感じに仕上がっているかも」との朗報!

関西・神戸で春にケールができるの⁉ 西日本ではなかなか難しいと思い込んでいた……。

そして数カ月間、生育状況を追っかけ……。ついに、「今まさに旺盛!来るなら今週か来週!」とご一報いただいたのが5月末。嬉々として6月初旬に訪問。

例年2月と8月の2回播種し、メインはカーリー系ケール。今春は「私が好きな品種なので」と播いた、純子さんもお気に入りのロシアンケールが見事な出来だった。この時期に関西・神戸で柔らかいロシアンケールに出会えるなんて!と感動。

とはいえ、やはり最盛期の冬ケールの方が肉厚で甘い。冬は露地の3~4畝にケールが咲き誇るが、この時季は1畝。それでも大きくしなやかな葉を畝いっぱいに広げたロシアンケールは、とても美しい。

純子さんも無類のケール好き。

「このロシアンは柔らかいので、サラダやジュースにすることが多いですね。色もキレイなので、付け合わせ野菜としても重宝しています」

この品種は有機の固定種なので、種採りができます。ナチュラリズムファームでは夏頃行うとのこと。

冬の肉厚カーリーケールは、チップスにすると美味しい!ということで、「ケールチップス」に加工して販売したことも。六次産業にも積極的で、新たなケール商品に考えを巡らせているという。

純子さんに、各種ケールのオススメの食べ方を教えてもらった。

「カーリーケール」
丸麦とドライトマト、くるみのサラダ…オリーブオイルと塩、バルサミコ酢で和える

「ロシアンケール」
おにぎり巻き…ロシアンケールを塩茹でする。軸は刻んでごはんに混ぜておにぎりにし、葉で包む

「カーボロネロ」
煮込み料理に…ロールキャベツのように使う。カーボロネロでミンチを巻いて野菜出汁やトマトソースで煮込む

この3品だけで今日のディナーが完成する。ケールの汎用性の高さ、やはり、素晴らしい。

温暖な神戸の春ケールも柔らかい

神戸市西区は寒暖差が激しく、それが美味しいケールの味を左右するのかなと思っていたが、大皿さんの圃場がある場所は「それほどでもない」上に、この時期はほどよく暖かく、柔らかい葉のケールができるという。

「気温が上がり過ぎると発芽しないですけどね。花が咲き始めたら菜の花として出荷します」と、純子さん。

関西では春以降、柔らかいケールを育てるなんて難しいと思い込んでいた。同じ地域でも気候や地形、風向きなどによって違いが出るのだと、改めて気づかされた。

大皿さんだからこそ、なのか。
「いやいや、場所がいいんですよ」と謙遜するが、土質も影響するのだろう。

ナチュラリズムファームの土は肥料少なめで作る。家畜由来の堆肥は使わず、米ぬかや油かすなどを発酵させたものを少しだけ入れるのが特徴だ。農薬は使わないので、虫対策にはネットを掛ける。

撮影するためにネットを外してもらったら、どこからともなく、蝶々が寄ってきた。貴重なケールが食べられては大変!と、急いでネットを掛けた。こうやって、手間をかけて大切に育てられたロシアンケールは、硬くなりがちな春ケールとは思えないほど柔らかく、ほろ苦さの塩梅も冬ケールと遜色ないほどだった。

ケール黎明期から、栽培をスタート

大皿さんの周りには、いろいろな相談や依頼が集まってくる。ケールを育てはじめたのも、知り合いからの依頼だった。10年以上前のこと。ケールが今よりももっとマイナーだった時代。近くに栽培している農家はいなかったが、「種を渡されて、面白そうだなと思ったし、食べてみると美味しかった」。

その後、付き合いのある八百屋経由で東京の高級スーパーマーケットに卸した。

「とはいえ、どういう形で納品するのかさえも手探りだったから、根っこごと引き抜いて……。葉掻きすると知ったのはその後」と、笑う。

今では、ケールはナチュラリズムファームの定番野菜の一つ。真夏以外は概ね収穫できるよう、年間の栽培計画を立てている。ファーマーズマーケットやCSA(地域の支援型農業)などで販売するほか、大手スーパーや地元の自然派系スーパーなどにも卸す。冬期にはカーボロネロも加わるというので、さらに圃場は賑やかに、華やかになる。

立派な角と髭を蓄えた、ヤギの「あきら」が見守る中、ケールの最盛期に向けて、準備を始めている。

「新しい」と「面白い」がコトはじめのカギ

そう、「大皿さんち」には、ヤギがいる。6匹も。この5月に三つ子が生まれ、一気に家族が増えた。7年ほど前、神戸市農政局の職員に、「飼ってみない?」と提案されたのがきっかけで、「雑草を食べてくれるといいな」と、除草目的で飼い始めたという。今では、「ヤギのいる農園」として、近隣の方々のほか、大皿さんのもとで農業を学びたいと来る新規就農者や兼業農家などにも愛される存在だ。

ナチュラリズムファームは2010年頃に開園。それ以外にも、「農」「次世代」「地域」をキーワードに活動は多方面に広がる。ざっと挙げると……。

〇BIO CREATORS(ビオクリエイターズ) 
神戸市西区の複数の有機農家とともに、地域と農業がつながる様々な活動を行う。例えば、CSA(Community Supported Agriculture)の取り組み。地域住民が収穫前から野菜の定期購入をしておく仕組みのこと。地域との継続的なつながりを維持することで安定した農業を目指す。また、神戸市のネクストファーマー制度(有機農業スクール)の認定農家として、新規就農者や兼業農家を育てる。

〇都市農園「シェラトンファーム」の管理
神戸の六甲アイランドにある「神戸ベイシェラトンホテル」が運営するオーガニック貸農園の運営管理、栽培指導などを行っている。

〇神戸市農村定住促進コーディネーター(里山暮らしの相談)

〇神戸市内の小学校で、コンポストを使った農業教育を実施(25年は8校。今後増える予定)

〇神戸市内の中学校の部活が地域活動(コベカツ)になるに伴い、「農業部」の立ち上げを支援

〇一般社団法人農サイド…担い手不足だった里山公園の農地管理支援、西区駅前リニューアルに伴う地域活性化の取り組み(マルシェやイベント開催)、神戸市オーガニックビレッジの取り組みなど

兵庫県や神戸市における、有機農業の施策に関する委員を務めたり、助言を求められることもある

自治体や地域団体、個人から様々な相談や依頼が後を絶たない。内容によっては、新しい団体を作って運営することも。

「面白そうだな、という直感で受けて、行動に起こし、具体的な形に落とし込む。ここ最近は、次の世代を育てること、次の世代のことを考えて動くことを意識しています。未来に向けて、環境のために何ができるのか……」と、話す表情がきりりと引き締まる。

個人的な感覚だけではなく、課題や問題を捉えて、それらを解決しようと行動に移すことができるからこそ、人が集まってくるのだろう。

とはいえ、決してガツガツしていない。むしろ淡々とした落ち着いたトーンで、さらりといくつもの舟を乗りこなしていく。その原動力はどこにあるのだろう。

―後編につづく

ナチュラリズムファーム
兵庫県神戸市西区玉津町二ツ屋286-1
090-8934-6611
https://naturalismfarm.com/