
きっかけは、2025年2月。SNSで見た、とある奈良の農家さんが投稿していたケール圃場の写真だった。カーリー系ケールやカーボロネロなど各種ケールの最盛期を伝えていて、そのすくすくと立派に育ったケールたちに思わず目を見張った。特に、画面中央にわさわさと茂っていた「それ」は、「お花?」と思わず画面を拡大してしまうほどの存在感。早速連絡を取り、「それ」を送ってもらい、取材アポも取り付けた。
取材・文:笠原美律
撮影:久保秀臣
地域活性化のために開園

「それ」とは、「Bear Necessities (ベアネセシティーズ)」というケール。アメリカの固定種だそうだが、自分調べの現段階では、発祥の地も名前の由来も判然としない。
そもそも、ケールの美しさや多彩さに魅了されたことも私がKALEGEEK(ケールオタク)になった理由の1つであるが、まさにこのベアネセシティーズにも、ひとめぼれしてしまった。

奈良県御所(ごせ)市に位置する「葛城山麓(かつらぎさんろく)農園」。葛城山の正式名称は、大和葛城山(やまとかつらぎさん)で、御所市と大阪府唯一の村、千早赤阪村との境にあり、大阪府最高峰の山だ。日本三百名山にも選定されているそのすぐ山麓の農園を訪れた3月初旬は、あいにくの雨模様。葛城ICを下りて10分ほどで到着した現地には、たくさんのビニールハウスが並んでいた。

今回取材に対応してくれたスタッフの森さん(写真左)によると、約2,000坪の敷地に10棟のハウスや露地などがあるという。正社員やパートあわせて10名ほどの人員で、少量多品種、年間約150品目のさまざまな野菜を化学農薬・化学肥料を使わずに育てている。
2015年に開園。社長の西村俊伸さんは所有農地の活用を考え、近隣に飲食店が少なかったこともあり、地域の活性化を目指して農園とそこで採れる野菜を使ったレストランを開業するに至った。
可愛いビジュアルが料理に映える

集まった農園スタッフは、元シェフや脱サラなどいろいろなバックグラウンドを持つが、一様に野菜好きだ。育てる品種は、スタッフの好きな野菜や、「育ててみたい」という好奇心や意思を尊重して決めることも多い。ケールもその1つだった。
5、6年前にイタリアン料理の元シェフだったスタッフの提案でカリーノ系ケールやカーボロネロからスタート。やがてほかのスタッフたちも「葉の形がかわいい」「きれいだから育ててみたい」といって、ロシアンケールやベアネセシティーズなども加わった。

今季ケール棟を担当した森さんは、「ベアネセシティーズは味わいも見た目もロシアンケールと似ているので、最近はロシアンケールよりもベアネセシティーズを作っています。ベアネセシティーズの方が、小ぶりで育てやすく、細かいちりちりっとした葉の形状が特徴的です。飲食店さんも、料理の仕上げに飾ったり、炒めても葉の形がキレイなままなので、好んで使ってくださっているところが多いです」と話す。

私がSNSで見たベアネセシティーズは、葉が細かいものから平べったいもの、紫色が混じっているものや緑色も濃淡いろいろ交っているもの、といった具体に、何種類ものベアネセシティーズが植わっている印象があった。
実際に現場を見ると、まさにその通りで、「ほんとに全部、“ベアネセシティーズ”という1品種ですか?」と思わず質問してしまったほど。森さんいわく、固定種なので個体差が著しく、3、4種類くらいの個性が出ているとのこと。その美しさを目の当たりにして、「うわぁ」と感嘆の声が漏れ出てしまった。カメラマンさんがシャッターを切るその横で、私もスマホをかざして「すごい、かわいい、おもしろい」と、興奮ぎみに連写した。

森さんもケール好きというので、その理由を聞くと、「造形美。きれいですよね。成長して伸びていく様(さま)もきれいです」。その意見に私は激しく同意。さらに、料理のしやすさや食べやすさも気に入っているとのこと。カーボロネロは煮崩れしにくいのでおでんに入れたり、ベーコンとくるくる巻いて、コンソメやトマトと煮込んだり。カーリー系やベアネセシティーズは柑橘系とあわせるだけで、美味しいサラダになるのでよく作るという。
「紫色のカーリーは、緑色のものより柔らかいし、火を入れると変色しやすいので、生で食べるのがおすすめです」、と森さん。
最近では、マルシェでもケールを好んで買っていく人が増えているそう。
毎週のマルシェで着実にファン増加

今季のケールは2024年7月末に播種、8月末~9月初旬に定植し、12月頃に最盛期を迎え、2025年4月20日まで収穫できたそう。毎週金曜日、奈良県明日香村で開催されている「明日香ビオマルシェ」に当園も出店しているというので、4月初旬に訪れてみた。

カーリー系やベアネセシティーズがまだ手に入り、しかも、この時季だけに咲く貴重なベアネセシティーズの花も購入することができた。さっと湯通しして、私はそのまま、むしゃむしゃといただいた。若さとほろ苦さがたまらない、特別感に浸った。来季はまたどんな顔を見せてくれるのか、今からわくわくしている。

当園の野菜は県内の飲食店へ卸しているほか、近隣の道の駅や、毎週日曜日に当園で開催の「さんさんマーケット」や毎週金曜日に奈良県明日香村で開催している「明日香ビオマルシェ」、ネット通販(詳細は「shoplist」ページへ)などで購入することができる。
売り上げの多くは、毎週出店している各種マルシェでの販売が占めているとのこと。どちらのマルシェもリピーターが多く、利用者にとってはもはや暮らしの一部として欠かせないものになっているということだろう。都会に住むものから見ると、スーパーに立ち寄る感覚でマルシェに出向き、直接農家から採れたて野菜を買うことができる日常は、この上ない幸せだと感じる。

取材で訪問する前に、当園のネット通販を利用して「お野菜セット」を注文した。備考欄には「ベアネセシティーズ込み、ケール多めで!」というお願いを添えて。ケールはもちろん、同梱されていたビーツや葉玉ねぎ、ハーブなどの野菜も力強さを感じたが、リピーターさんからもそういった声がよく寄せられるという。秘訣を聞くと、「水だと思います。葛城山から降りてくるきれいな地下水を使っているのが、野菜の味に大きく影響しているんじゃないかな」。
大阪府と奈良県を眼下に望む山々からのきれいな水と空気を栄養にして、農業を楽しむスタッフたちが育てる野菜たち。これからも、葛城山麓農園の四季折々の恵みを味わっていきたい。
葛城山麓農園(かつらぎさんろくのうえん)
奈良県御所市楢原1619-3
0745-44-8369
https://katsuragi-sanroku.farm/